癌研究班

 がんは2人に1人の割合でかかる疾患であり、適切な診断や治療法の確立に向けた基礎研究を進めないかぎり、高齢化が進む日本において医療費の負担増は避けられない。発がんはゲノムの変異に由来する自律増殖、浸潤転移能、ゲノム不安定性などの複数の現象で構成されるので、これまでの研究は発がんの個々の過程に焦点を当てた個別研究が主体であった。こうした個別研究は発がん機構に関与する“ピース”の発見につながり、一部のがんでは分子標的治療薬の開発に成功した。しかし、多くのがんでは “ジグソーパズル”の全体像が明らかになっているとは言えない。これまでの知見をもとに見方を変えると、がん細胞は、発がんの過程で低酸素や低栄養等の本来生存できないストレス環境下で増殖・生存できるような変化を獲得してきたといえる。そこで、癌研究班では発がんを“ストレスに抗するがん細胞の適応現象”としてとらえ、ストレスのキーワードのもとに発がんを統一的に理解することを目指す。

 癌研究班では6チームがこれまでに確立してきた実験手法を発展させてがん細胞のストレス応答を解析するとともに、各チームの情報、技術の開発と共有を活発に進めることにより新たな研究領域を切り開くことを目標とする。具体的には、低酸素、低栄養、炎症、酸化といったストレス下での細胞の増殖、浸潤転移を評価する細胞・動物モデルを確立し、ストレス環境に適応する遺伝的変化、すなわち、“ストレス応答を担う遺伝子の同定とシグナルネットワークの解析”を行う。がんの遺伝的変化を加速する重要な機構として“ゲノム修復機構の破綻”に焦点を当て、DNA二重鎖切断損傷がおよぼす染色体高次構造への影響やそれらの修復機構をin vitro再構成系とX線結晶構造解析を併用して解明する。こうした分子機構の解析に平行して、当班では、技術革新の柱として、“単一細胞解析システム”を開発する。単一細胞の運動を観察できるマイクロパターン化二次元細胞培養基板や三次元培養技術を用いて、がん細胞の浸潤能を定量評価する実験系を確立する。また、がんが、がん細胞、繊維芽細胞、免疫細胞などの多様な細胞の集団で構成され、相互にコミュニケーションをとる細胞社会であることに着目し、数万個の細胞を同時並列に解析する“細胞マイクロアレイシステム”を構築し、細胞間で分化・増殖を制御する因子を特定する。

グループメンバー

 仙波、胡桃坂、岡野、武田、田中(剛)、宮浦

がん班研究