研究者

土肥 多惠子

国立国際医療センター研究所 消化器疾患研究部 部長

外部環境ストレスによる消化管細胞動態の解

近年数十年ほどの間に、アレルギー疾患や、消化管慢性難治性炎症であるクローン病・潰瘍性大腸炎は急激に増加している。これらの炎症・アレルギー疾患は、疾患感受性の遺伝的背景に加えて、環境による後天的な因子が加わり、発症すると考えられる。しかしながら、遺伝的背景即ちゲノム配列が数十年の間に変化することはないので、近年の急激な増加は、環境因子の影響によるものと考えられる。疾患感受性に関わる外部環境ストレスとしては、様々な因子が予想されるが、近年の生活習慣の変化を鑑みるとまずは、食生活の変化が大きいのではないだろうか。摂食内容は腸内細菌叢の構成に影響を与えるが、生体の免疫制御能は、腸内細菌に依存していることから、様々な免疫疾患発症に関与していると考えられる。さらに、これまでになかったアレルゲンの増加、放射線や紫外線による傷害による傷害も重要な環境因子である。本研究では栄養過不足、アレルゲン曝露、感染、DNA傷害(放射線、紫外線)などを含む外部ストレスを実験動物に与え、消化管上皮細胞と粘膜免疫系細胞の動態、それらのエピゲノム修飾への影響を解析し、生活習慣病や難治性疾患感受性との関連を評価する。これらのストレスは、慢性炎症を介して発癌に関与する可能性が高く、特に消化管においては慢性炎症が発癌の母地となっている(炎症性腸疾患、慢性委縮性胃炎、逆流性食道炎など)。そこで、ストレス誘導による上記の解析を通して、炎症の遷延化とそれに伴う発癌メカニズムの解明にも取り組んでいる。

土肥 多惠子