研究者

合田 亘人

早稲田大学 理工学術院 教授

近年、過食や運動不足などの生活習慣の悪化により生じる肥満を基盤として、糖尿病、動脈硬化や脂肪肝などの代謝疾患が発症し、健康寿命の延伸の妨げとなっている。これらの疾患にはインスリン抵抗性が共通の病態としてかかわっており、この病態の発症・増悪機序の解明は生活習慣病の治療戦略の開発には欠かすことができない喫緊の課題である。インスリン抵抗性の発症機序には、慢性炎症、アディポカインの異常分泌や中枢神経系による制御破綻などの重要性が明らかになっている。一方、酸化ストレスや小胞体ストレスに代表されるさまざまな細胞内ストレスの関与にも注目が集まり、インスリン抵抗性を基盤とする疾患をストレス応答性疾患と捉える新しい概念も生まれつつある。

元来、生体が有するストレス応答は、細胞や臓器の機能の恒常性維持に必須の防御機構と考えられてきたが、慢性的なストレス刺激によるストレス応答の持続やその結果として誘起される調節を失った過度なストレス応答が細胞機能を傷害することが分かってきた。我々は、そのようなストレスの中で、好気的生物の生存にかかわる低酸素ストレスに着目して、これまでに造血幹細胞、網膜上皮細胞や免疫担当細胞の生理的な機能発現における重要性を報告してきた。また、低酸素ストレス応答が、肥満やアルコール性脂肪肝などの病態における自然免疫系や肝細胞の病態生物作用にもかかわっていることを見出している。しかしながら、低酸素ストレス応答を介した病態制御に関する詳細な分子機構は十分に解明されておらず、多くの疑問点が残されている。そこで、本事業では、肥満、糖尿病や非アルコール性脂肪肝などの生活習慣病の発症や進展における低酸素ストレス応答を介した病態制御機構を分子レベルで解明し、その知見に基づいた新しい治療戦略に繋がる研究基盤の確立を目指すことを目的とする。具体的には、ショウジョウバエやマウスをモデル生物として利用し、ヒト生活習慣病に類似した病態モデルを再現・利用することで、低酸素ストレスに応答性を示す病態関連標的分子の検索とその生物作用の解明に取り組む。

合田 亘人