研究者

井上 宏子

早稲田大学 理工学術院 教授

生体が恒常性を保つためには、細胞の新生と共に細胞の死も必要不可欠であり、細胞死が適切に制御されることが重要である。これまでは、細胞死はアポトーシスないしはネクローシスを指していたが、最近では第二のプログラム細胞死と言われるオートファジー(自食作用)が注目されるようになってきている。オートファジーは、元来はアミノ酸飢餓に対応した細胞の反応として知られていたが、不要なタンパク質や老化したミトコンドリアのような細胞内器官の分解も行っていることが判明し、細胞内の恒常性維持に重要な役割を果たしていると考えられるようになってきている。さらに、アミノ酸飢餓や各種のストレスにより起こるミスフォールドタンパク質や異常を起こしたミトコンドリアがオートファジーにより取り除かれることも分かってきた。特に、神経細胞ではこうしたオートファジーの抑制が、異常タンパク質の蓄積、ひいては神経変性疾患の原因と考えられるようになってきている。従って誘導オートファジーの制御は細胞死を制御することに繋がる可能性があり、そうした機能をもつ化合物の探索が始まっている。そこで私共もオートファジーを誘導する物質の検索を行っている。これまでに、酵素阻害剤であるジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、糖質であるステビオシド、未同定ではあるが、ある種の植物に含まれる脂溶性成分などが新たにオートファジーを誘導する物質であることを見出した。また、オートファジーが誘導されるシグナル伝達経路についてもmTOR系以外にあることが分かっているので調べた。その結果、これまで関与が指摘されてきたcAMP-PKA経路は、細胞の種類や血清の有無により異なることを明らかにした。

井上 宏子