研究者

仙波 憲太郎

早稲田大学 理工学術院 教授

乳癌は非浸潤性乳管がん(DCIS、ductal cartinoma in situ)と呼ばれる管腔内での良性腫瘍形成という段階から、より悪性の浸潤性乳管がんに進むと考えられている。乳管内部の細胞は低栄養や低酸素などの物理化学的ストレスを受けることになるので、乳がん細胞はそれに抗して増殖、浸潤する能力を獲得すると考えられる。我々は、乳がんの発がん過程をモデルとして、ストレスとそれに対する抵抗性に関わる遺伝子の解明を目指す。

この研究を進めるには、がん細胞が受けるストレスをできるだけ忠実に再現する実験系が必要である。しかしながら、生体組織においてがん細胞が受ける物理化学的ストレスや、マクロファージや線維芽細胞などを含む腫瘍微小環境との相互作用をin vitroで忠実に再現することはきわめて困難である。一方、遺伝子機能を調べる一般的な手法である遺伝子改変マウスの作製は、多数の遺伝子のin vivo機能解析にはコストと時間の面で不向きである。そのため、我々はマウス個体を用いてストレス耐性獲得を指標に多数の遺伝子の機能を迅速かつ低コストで評価できる実験系の開発に取り組んでいる。

我々はこれまでに乳腺幹細胞を取り出し、fat padに移植することで乳腺を生体内で再構築する系を確立した。さらに、レンチウイルスベクターの改良と実験条件の詳細な検討により、in vitroで乳腺幹細胞に目的の遺伝子を導入し、fat padに移植したのちに、ドキシサイクリン(Doxycycline)添加によってその遺伝子を誘導発現させるという一連の技術を開発した※。また、Behbod(2009)らによって報告された乳管内に直接的にがん細胞を注入するintraductal injectionという技術を取り入れ、さまざまながん細胞株の乳管内増殖能を検討している。基盤形成事業では、これらの手法を用いて、乳がん細胞がDCISの状態を経て浸潤性を獲得する過程においてがん細胞がストレス耐性を獲得していくメカニズムを解明する。※福島医薬品関連産業支援拠点化事業での成果

仙波 憲太郎