研究者

鈴木 克彦

早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授

我々は運動・ストレスと免疫異常、炎症、酸化ストレスについて研究している。一過性の激しい運動に伴う筋損傷や内臓傷害には炎症や酸化ストレスが関与する可能性がある一方、適度な運動習慣・トレーニングは生活習慣病や動脈硬化の予防に役立つが、それらのメカニズムは未解明であるため、免疫学的、分子生物学的手法を用いて実験的検討を進めている。

具体的には、長時間の持久性運動により各種サイトカインの産生が高まり、運動に伴う免疫変動や炎症のメディエーターとして関与している可能性が示されつつある。また、高脂肪食餌誘発性肥満モデルマウスを用いて運動トレーニングによる脂肪組織の慢性炎症改善効果とその作用機序について免疫細胞の動態変化に注目してフローサイトメトリー法により検討した。その結果、運動トレーニングは肥満マウスの脂肪組織における炎症性サイトカインの遺伝子発現を減少させるのみならず、炎症性(M1)マクロファージとその浸潤を制御するCD8陽性T細胞の間質細胞における割合および細胞数を減少させた。このように、運動が脂肪組織特異的にマクロファージおよびT細胞の動態を制御することで、慢性炎症を改善することを見出した。

さらに、マクロファージなどの細胞株を用いて遺伝子発現の網羅的解析を行い、炎症性変化に反応する分子をリストアップしている。具体的には、リボソームプロファイリングの測定系を立ち上げ、マクロファージの活性化に関連する分子群のデータベースを作成し、炎症反応の制御機構の解明や新規バイオマーカーの探索を進めている。今後、炎症性細胞浸潤を制御する物質レベルの同定や有用な抗炎症物質、抗酸化物質、生理活性物質の検索を進め、疾病予防や抗加齢医学に役立てる研究を推進する予定である。

鈴木 克彦