研究者

武田 直也

早稲田大学 理工学術院 准教授

癌の転移や浸潤性の獲得においては、細胞の運動性が亢進していると考えられている。また、癌細胞の浸潤には間質細胞が深く関与することも報告されており、その存在は癌の悪性度と相関すると考えられている。コラーゲンゲル三次元培養モデルにおいては、ゲルマトリックス内へ線維芽細胞が先駆けて浸潤し、これに先導されるように癌細胞が浸潤することが観察されている。この腫瘍組織に存在する癌関連線維芽細胞(CAFs)の一部は、骨髄から遊走してきた間葉系幹細胞(MSC)が分化したものと考えられている。このように、細胞遊走挙動を精緻に解析することは、癌の転移浸潤機構の詳細を解明し、癌の悪性度の定量的な評価につながると考えられる。

In vitroにおける細胞運動能の評価法としてはボイデンチャンバーアッセイなどが有名である。しかし、このアッセイ法では細胞群の運動挙動は評価できるが、運動能が亢進した特定の癌細胞やCAFsの個々の細胞の遊走挙動を定量的に測定することはできない。本研究では、癌細胞や線維芽細胞さらにMSCの遊走挙動を単一細胞レベルで制御しまた評価できるマイクロパターニングを施した二次元細胞培養系を構築する。これを用いて細胞の遊走の速さや方向性の定量的な解析を行う。このために必要な顕微画像解析システムの構築にも取り組む。さらに、MSCについては遊走挙動運動のメカノストレスと線維芽細胞などへの細胞分化挙動について遺伝子発現変化の観点から解析し、EMT研究へ供し得る実験系への応用を図る。