研究者

常田 聡

早稲田大学 理工学術院 教授

腸内細菌が司る生体機能調節メカニズムの解明

私たちを取り巻くライフスタイルの変化に伴って、炎症性腸疾患、癌,自己免疫疾患、心疾患、生活習慣病、アレルギー疾患などの多因子疾患は増加の一途をたどっている。これら現代病の急激な罹患率の上昇は遺伝的要因だけで説明することは難しく、遺伝的要因と環境要因とが複雑に相互作用して発症すると考えられる。身近に存在する発ガン物質やアレルゲンなどの環境因子に対する感受性には個人差があり、この個人差はこれまで一般に「体質」によるものとされてきた。「体質」は遺伝子多型やエピジェノタイプ(DNAのメチル化やクロマチンで規定されたゲノムの修飾状態)が強く支配すると言われている。 このような中、「体質」を決定する重要な因子の一つとして、腸内細菌の存在に注目が集まっている。腸内細菌と粘膜免疫系との相互作用が、免疫系の恒常性維持に重要な役割を果たしている。また、食生活の欧米化や衛生環境の変化は、腸内細菌叢の構成の変動要因の一つである。つまり、腸内細菌の乱れに伴う腸管免疫系の不調が、全身性の免疫応答に影響を及ぼしていると考えられる。そこで、腸内エコシステムの視点から、栄養環境を変化させたマウスの炎症性腸疾患、アレルギー、代謝性疾患などの現代病に対する感受性のメカニズムを解明する。さらに、腸上皮細胞や自然免疫細胞に発現する自然免疫受容体や核内受容体と腸内細菌の相互作用を理解することで、腸内細菌に期待されている宿主への保健効果の付与に関するエビデンスを集積し、生活習慣病および難治性疾患の予防・治療法への貢献を目指している。

常田 聡